ムスリムと日本で外食する前に知っておきたい、日本の「ハラルレストラン」事情

ムスリム観光客の増加により、ムスリムが食べられる「ハラールメニュー」を提供するレストランが増えてきています。同時に「ローカルハラル認証」や「ムスリム・フレンドリー」と言った表現を目にすることがあります。

「ハラールってなに?」、「認証を受けているってどういう意味?」、「ムスリムはハラールと書いてあればそのレストランで食事をできるの?」など、日本で初めてムスリムの方と食事をする際は、疑問に思うことが色々とあるかもしれません。

そんな方向けに、日本のハラールレストラン事情とレストランの選び方について簡単にまとめました。非イスラム教の国日本では、イスラム教の国の「ハラール」ではなく、「日本なりのハラール」で対応している状況です。実際にムスリムの方と日本で食事をする際は、その方のニーズをまず理解し、それに応えられるレストランを選択するのが良い思います。ハラールに対する考えは、人それぞれ異なるからです。

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はじめに

わたしはムスリムではありませんが、一般社団法人ハラル・ジャパン協会が主催する「ハラルビジネス講座」を受講しており、基本的なイスラム及びハラルの知識を備えた上でこちらの情報を掲載します。

また、アジアのイスラム教の国で生活した経験があります。そのご縁から、ムスリムの友人が日本に遊びに来ると、一緒にハラルのレストランで食事をしたり、お土産を探したりします。主に、その経験からこの記事を書きました。しかし、この記事のポイントでもありますが、ハラルに対する考えはムスリムの中でも色々ですので、あくまでも参考として読んでいただけたらと思います。

 

ハラールな食事とは

ハラールな食事の大前提は、原材料がハラルであることです。次のものが含まれないお料理がハラルとされるものです:豚肉、豚由来の成分、アルコール、ハラルではないお肉やその加工品(イスラム法に沿ってと殺された肉ではない鳥、牛含む動物性の肉)。

(動物性の食材を一切含まないヴィーガンや、菜食主義のヴェジタリアンは、原材料としては、ハラールと捉えることも可能です。ただし、みりんや酒といったアルコール類が使われていない場合に限ります。)

 

メニューの名前からは判断できないハラール

日本でふらっと外食する感覚で、ハラールの食事を探すのは容易ではありません。メニューの名前や、料理の見た目からだけでは判断できないからです。

例えば、和食の基本の調味料として、アルコールである料理酒とみりんはあらゆるところに使われています。また、「野菜スープ」と言っても鶏のだしが使われていたり、「15種の野菜サラダ」と言っても15種の野菜に加えてベーコンビッツがちょこっと乗っていたりするのは、よくあることです。

 

「No豚・Noアルコール」だけでは完結しないハラール

さらに、実は原材料以外のところでも、ハラルの概念は存在します。これがハラールの難しいところです。また、人によって色々と考えが異なる部分でもあります。

例えば、食器や調理器具。洗剤で毎回洗っていても、一度ハラルではない食材に使った場合、それらはハラルではないと判断する人は多くいます。また、「ハラル」の管理が厳格な国では、輸送段階からハラルのものがハラルでないものと混在することは基本的にありません。食品とそれが扱われるキッチンは清潔であること、お酒の販売は一切ないことも、「ハラル」と言われるレストランの基本です。

このようなことから、日本のレストランのほとんどが「ハラル」ではないですし、その実現はとても難しいということがわかります。イスラム教徒が多数の国では、ハラルが「普通」ですが、日本ではその逆です。

 

その「ハラルカレー」を食べたいと思うかどうかは人それぞれ

「旅行中あるいは非イスラム教の国では、イスラム教の国と同等のハラールは求めない」と言う人もいます。でも、ほとんどの人は「豚肉だけは絶対に無理」と言います。個々人のハラルの基準は多様です。

例えば、日本のあるお店では、原材料的にはハラルのカレーを提供しているとします。でも同時に豚カツカレーもメニューにあるとします。

日本はイスラム教徒が少数派の国である、と言うことを前提においても、ある人は、豚が同じキッチンにあるだけで、その「ハラルカレー」はハラルじゃないと判断するでしょう。ある人はメニューに豚があるくらいなら我慢するけど、調理器具や食器もカツカレーと共有になっていたら、気分的に食べたくない、と判断するかもしれません。またある人は、自分の食べるカレー自体に豚とアルコールが入ってなければ食べられる、と判断するかもしれません。

このように、いくら原材料はハラルで整えられた食事が用意されていても、それを単純に食べたいかどうか、食べたいと思える環境かどうか、ハラルと捉えるかどうかとなると、それは個々人に判断がゆだねられているデリケートな問題です。

ムスリムは、豚と酒さえ入っていなければなんでも食べられる、という単純な話ではないということは、知っておきたいポイントです。

 

日本にもムスリムフレンドリーのレストランがある

そうなると、一体どこで日本でムスリムの方と食事をすれば良いのでしょうか。一つの方法として、イスラム教の認証団体から「正しくハラルの食材を扱っていますよ」という認証を受けているお店を選ぶということがあります。

ハラル認証とは、商品(主に飲食品)やレストランがイスラム教の戒律に沿った原材料で生産され、加工され、調達されていることを証明するマークのことです。

マークを取得するためには、ハラルの認証団体の審査を受け、基準をクリアしていることを証明してもらう必要があります。認証機関は世界中にたくさんあり、政府がハラルのルールを規格化している国もあれば、複数の団体が独自の規格を作成している国もあります。マレーシアやインドネシアは前者で、日本は後者です。

日本には、日本独自のハラル認証として、マレーシアハラルコーポレーションによる「ローカルハラル認証」や、NPO法人日本アジアハラール協会による「ムスリムフレンドリー基準」等の規格があります。このような規格をパスしているお店には、それがわかるステッカーが貼ってあったり、ウェブサイトでその旨、掲載しています。

日本でイスラム教の国と同じようにハラールの食事と環境を作るのは大変なことです。「必ずイスラム教徒の従業員がハラルの食事を扱わないといけない」、「アルコールの販売はしてはいけない」といった厳格なハラル基準に合わせようとすると、実現自体が難しくなり、ムスリムの方が食事できる場所がもっと減ってしまいます。

そこで、イスラム教の国で言う「ハラル認証」とは別のものとして、「ローカルハラル認証」や「ムスリムフレンドリーな対応」があります。日本で可能な範囲で、最大限ムスリムの方に安心を提供できるよう考えられた、あくまでも日本独自の規格です。

もちろん、数は少ないですが、ムスリムの従業員が調理し、アルコール販売も無く、ハラルの料理のみ提供するお店が日本にもあります。そのようなハラルのレストランと、日本独自の「ハラル」で運用しているレストランを混同しないことが重要です。

また、本来「認証」は、ムスリムの方に正しい情報と安心を提供するものですが、残念なことに、「ハラル認証」をビジネス化している団体もあるという話をニュースなどで見かけます。そこで、「認証」という言葉に安易にふりまわされずに、その認証団体の「基準」についてやムスリムによる口コミを調べることも、レストランを選ぶ上で大切です。

 

非イスラム教国である日本独自のハラール環境づくり

では、日本独自の「認証」を得ているレストランの例を紹介します。

一つ目は、渋谷にある牛門と言う焼肉屋さん。こちらは、マレーシアハラルコーポレーションのローカルハラル認証を得ています。

牛門では、ハラールの焼肉をいただくことができますが、ハラル専用のお店ではありません。ハラールでは無いお肉もあるし、アルコールの販売もしています。しかし、以下のような取り組みにより認証を得ています。

  • ハラールの原材料のみを使ったメニューがある
  • 完全にハラールとノンハラールを分ける(ハラールのお肉はハラールのお肉のみで管理している、食器も網も全てハラール専用がある。)

メニューブックには、認証の証明書が入っていました。これを見れば、どんなことを根拠にハラールと言っているのかがわかって安心です。このように情報を開示することがとても大切だと思います。

 

二つ目の例は、成田空港にあるカレー屋さん、La Toqueです。こちらはアルコールの販売も無い、ハラル料理のみのレストランです。NPO法人日本ハラール協会から「ハラールキッチン認証」を得ています。

以下のように、お店の前に認証書を貼っています。アルコール販売は無く、キッチンにあるもの全てがハラール、ということが誰にでもわかるようになっています。

このように、日本の現状に合わせたムスリム対応を行うレストランが徐々に増えています。ただし、どのような基準において、「ハラル」と言う言葉を使っているのか、利用する前にちゃんとチェックすることが大事です。

 

本人が判断できるよう、情報を提供する

日本なりのハラール、ムスリムフレンドリー等、いろいろとありますが、結局のところ、どの基準を選ぶかはムスリムの方一人一人の判断です。日本独自の基準についても、歓迎するムスリムはいる一方で、嫌がる人もいると思います。

そこで、もし、ムスリムの方と食事に行くことになり、お店を検討する際は、まずお店について、そして提供している「ハラル」料理について、調べて、その情報を共有することが大切だと思います。

調べる方法は色々とあります。お店のオフィシャルのウェブサイトや、ハラールグルメジャパンなどの信頼のおけるサイト、またHalal Naviなどのムスリムによる口コミサイトをチェックしたり、直接お店に電話をして聞く等は、すぐにできることです。「認証がある」といっている場合、どのような根拠の認証なのか、認証団体の基準についても調べると更に良いでしょう。

最終的には、一緒に行くムスリムの方に、本人がそこで食べられるか否かを判断できる情報を提供し、本人に決めてもらうのが最善です。「アルコールの販売はしているけど、食器や調理器具はハラル専用がある」とか、「ヴィーガンのレストランだけど、メニューによっては多少料理酒が使われている可能性がある」といった具体的な情報を共有できれば、ムスリムの方も判断できるでしょう。

わたしのムスリムの友人にも、いろんな考えの人がいます。「ここは日本だから豚さえ入ってなければOK」という人もいれば、「調理器具までハラル用じゃない場合、その店では食べたくない…」という人もいます。彼らが日本に来た場合、前者の友人は食事処のオプションがたくさんありますが、後者の友人は行動範囲が限られてくることがわかります。実際、後者の友人が来日した際は、Airbnbに泊まって、持ってきた自分の調理器具で自炊していました。このように、ムスリムの方も色々なのです。

 

最後に

ハラールに対する考え方は人それぞれです。日本で一緒に食事をすることになったら、そのムスリムの方がどのようなハラルの基準を求めているのか、まず知ることが大切だと思います。多くの日本人が思っているほど、ハラルは「決まりきったルール」のようなものではなく、個々人のライフスタイルのようなものだからです。

同時に、宗教に係わることなので、相手の考えを尊重する気持ちが大切だと思います。その方が安心して、気持ちよく食事ができるよう、正しい情報を提供したいです。その為には、「ハラル」や「認証」と言う表向きの言葉にまどわされず、その基準や根拠を確認し、本人が判断できるだけの情報を提供できると良いと思います。

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